ダンマパダこころの清流を求めて

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第一 対[句]の章
YAMAKA VAGGA(THE TWIN VERSES)
【1偈~5偈】

第1偈

[偈]
1. こころかんするすべてのものは、 こころ先立さきだちち、 こころ
ぬしであり、 こころよりる。ひとよごれたこころはなした
り、おこなったり、かんがえれば、 荷車にぐるまをひくうしあし
車輪しゃりんのごとく、 くるしみ、そのひとしたがう。

[パーリ語]
Manopubbaṅgamā dhammā / manoseṭṭhā manomayā
manasā ce paduṭṭhena / bhāsati vā karoti vā
Tato naṁ dukkhamanveti / cakkaṁ va vahato padaṁ

[英語]
All mental phenomena have mind as their forerunner:
they have mind as their chief; they are mind – made.
If one speaks or acts with an evil mind.
Suffering “dukkha” follows him just as the wheel follows the hoof
– print of the ox that draws the craft.


[因縁物語]
※一人の信心深い中年男チャクパーラ(Cakkhupāla)が出家 して比丘となった。たゆまぬ努力の結果、比丘は、悟りの第四段階である阿羅漢果(Arahaṁ)を得たが、 不幸なことに、その時、盲になった。 ある夜、回廊をゆっくり歩きながら瞑想をしていた盲目の比丘チャクパーラは、知らずに虫を踏み殺してしまい、 仲間の比丘から不殺生の戒律を犯したと仏陀に訴えられた。 しかし、仏陀は、故意に虫を殺したのではないという理由からこの比丘をお許しになった。 そこで比丘たちは、「何故、比丘チャクパーラが悟りをひ らいたのに、盲になったのか?その原因をぜひ知りたい」とたずねた。 比丘チャクパーラの前世は医者であった。そして、一人の目の悪い貧しい女性に薬を与えていた。 それには条件があり、もし、視力が回復すると、女性とその子供たちは医者の召し使いになるという約束があったのである。 しかし、心から望んだ約束でないため、女性は逆にだんだん視力がおちていく芝居をした。 これに怒った医者は、別の薬を与え、彼女を本当の盲にした。 これが、比丘チャクパーラが盲になった原因であると仏陀は述べられたのである。
(第1偈の因縁物語)

第2偈

[偈]
2. こころかんするすべてのものは、 こころ先立さきだちち、 こころ
ぬしであり、 こころよりる。ひときよらかなこころはなした
り、おこなったり、かんがえれば、 ひとかげがそう
ごとく、たのしみ、そのひとにしたがう。

[パーリ語]
Manopubbaṅ gamā dhammā / manoseṭṭhā manomayā
Manasā ce pasannena / bhāsati vā karoti vā
Tato naṁ sukha manveti / chāyāva anapāyini

[英語]
All mental phenomena have mind as their forerunner:
they have mind as their chief; they are mind – made.
If one speaks or acts with a pure mind, happiness “sukha” follows him
like a shadow that never leaves him.


[因縁物語]
※アディンナプッバカ(Adinnapubbaka)というバラモン の一人息子マッタクンダリ(Maṭṭhakuṅḍalī)は、病気で長い間苦しみ続け、すでに死の一歩手前であった。 というのも父親がたいへん「けち」で、息子の病気が手遅れになるまで一度も医者に見せなかったのである。 この悲惨な状態を感知した仏陀は、その息子を救うために会いに行かれた。 瀕死の息子は、じっーと仏陀の姿を見ると、大いに喜び、その喜びの気持ちのまま息をひきとり、 三十三天界(Tāvatiṁsa)に生まれ変わった。天界に生まれた息子は、墓の前で涙を流して悲しんでいる 父親の哀れな姿を見て、何とか父親を救ってやりたいという気持ちから老人の姿に変身して天界から人間に降りて来た。 そして、「自分は死後、天界に生まれ変わった」と告げた。突然、目の前に現れた老人から「死んだ貴方の息子です」 と名乗られた父親は、たいへんびっくりした。 しかし、その老人の声が死んだ息子の声にたいへんよく似ているので、だんだん信じるようになった。 やがて、父親は、息子のアドバイスにしたがって、仏陀と比丘たちを家に招待してたくさんの御馳走を施した。
(第2偈の因縁物語)

第3・4偈

【第3偈】
[偈]
3. 「かれわたしののしり、たたき、 かし、 わたしのものを
うば ってしまった」と、そのようなうらみを
つづける ひと たちに、うらみの しずまることはない。

[パーリ語]
Akkocchi maṁ avadhi maṁ / ajini maṁ ahāsi me
Ye ca taṁ upanayhanti / veraṁ tesaṁ na sammati

[英語]
“He abused me , he beat me. He defeated me, he robbed me;”in those who harbour such thoughts, hatred is not appeased”

【第4偈】
[偈]
4. 「かれわたしののしり、たたき、 かし、 わたしのものを
うば ってしまった」と、そのようなうらみを
たない ひと たちに、うらみは しずまる。

[パーリ語]
Akkocchi ṁaṁ avaḍhi ṁaṁ / ajiṅi ṁaṁ aha si ṁe
Ye ca ṭaṁ ṅupaṅayhaṅṭi / veraṁ ṭesu pasaṁṁaṭi

[英語]
“He abused me , he beat me, He defeated me,
he robbed me;” in those who do not harbour such thoughts,
hatred is appeased”


[因縁物語]
※年老いてから出家したティッサ(Tissa)長老は、新入り であるにもかかわらず、仏陀の従兄弟であることを鼻にかけ、先輩の比丘たちに敬意を払わないばかりか、 サンガに入門した比丘としての務めも怠った。 ほかの比丘たちもティッサ長老の態度を心良く思っていなかったので、 やがてティッサ長老はみんなからいじめられるようになった。立腹した長老は、仏陀のところへ出かけ、 このことを訴えた。 仏陀は、ティッサの立場を十分理解した上でみんなにあやまることをアドバイスされた。 しかし、ティッサ長老が拒否の態度を示したので、仏陀は「ティッサよ、お前は前世においても やはり同じ態度をしたのだよ。他の比丘たちに恨みを持つのではない。 恨みを持たぬ行動だけが、恨みを静めることができる」と説かれたのである。
(第3・4偈の因縁物語)

第5偈

[偈]
5. このにおいて、うらみは うらみによってけっして
むことはない。うらみをててこそ むのである。
これは、永遠えいえんわらぬ真理しんりである。

[パーリ語]
Na hi verena verāni / sammantīdha kudācanaṁ
Averena ca sammanti / esa dhammo sanantano.

[英語]
Never can hatred be stopped by hatred in this world;
only by not holding hatred, by being free from hatred do they cease.
This is an eternal law.


[因縁物語]
※ある農家の息子は、父親の亡くなった後もよく仕事に精 を出し、残された母親の面倒もよくみていた。母親は、この孝行息子に早く嫁をもらうことをすすめていたが、 息子は嫁をもらう気もなく、のどかで平和な今の生活を楽しんでいた。 ある日、息子の将来を心配する母親が、嫁を探すために心あたりのある家を訪ねようとした時、 息子は母親に「どこの家に行きますか?」とたずね、「実は、私には好きな娘がいます」と言った。 やがて母親は、その娘を見つけてきて、二人を結婚させた。しかし、この新妻は子供ができない体であった。 跡継ぎのいない息子の老後を心配する母親は、子供を産める若い娘と再婚することを息子にすすめた。 しかし、今の妻で十分だと思っている息子は、再婚話にまったく興味がなかった。 ところが、子供のできない妻にとってはショックな話であった。 「いつの日か夫は、母親の再婚話に同意するかもしれない。そうなれば、私は母親が選んだ新しい若い娘の下で 召し使いのようにこき使われるだろう。その前に、子供ができそうな若い娘を私自身の手で見つけ、 夫の新しい妻にしよう」と考えた妻は、早速、村々を駆け巡り、一人の若い娘を見つけ、夫のもとへ連れてきた。 結局、この夫は二人の妻を持つことになったのである。 新しい妻は、すぐに子供を身ごもった。子供のできない妻は、それに嫉妬し、 妊娠中の新妻の食事にこっそり毒を入れ流産させた。そして、三度目の流産の時、瀕死の重体に おちいった新妻は、前妻の仕業によって三度も流産させられ子供を殺されたことを知り、復讐を誓って亡くなった。 そして、子供のできない妻も、すべてを知った夫の怒りを受け、まもなく病気で亡くなった。 復讐を誓った新妻はネコに生まれ変わり、毒をもった前妻は鶏に生まれ変わった。 そして、鶏が卵を産むと、新妻のネコがこっそり近づいて、その卵を食べた。 三度も自分の産んだ卵を食べられた前妻の鶏は、このネコに復讐を誓い、 死後、ヒョウに、又、前妻のネコは牝鹿に生まれ変わった。牝鹿が子供を産むと、前妻のヒョウがこれを襲い、 赤ちゃん鹿を食べた。三度も自分の子鹿を食べられた新妻の牝鹿は、このヒョウに復讐することを誓い、 死後、人食い鬼カーリ(Kāli)に生まれ変わり、又、前妻のヒョウは、若妻に生まれ変わった。 子を持つ母と、その子を食おうとする鬼になった二人の妻は、やがて、仏陀にさとされたのである。
(第5偈の因縁物語)

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