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第四章 花の章
PUPPHA VAGGA(FLOWERS)


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第53偈 ヴィサーカー

以後、ヴィサーカーを自分の母親のように深く尊敬しているという意味から 「ミガーラマータ(Migāramātā):ミガーラの母親」と呼ぶようになった。

【偈 :Gatha】
53. まこと あつ められたはな からおお くの花輪はなわつく られるように、 ぬべき存在そんざい である人間にんげん として まれたひと は、おお くのぜん をなすべきである。

【パーリ語 :Pali】
Yathāpi puppharāsimhā / kayirā mālāguṇe bahū
Evaṁ jātena maccena / kattabbaṁ kusalaṁ bahuṁ.

【英語 :English】
As from a heap of flowers many a garlands are made, even so many good deeds should be done by one born a mortal.

【因縁物語 :Story】
※アンガ国(Añga)の都バッディヤ(Bhaddiya)で ヴィサーカー(Visākhā)は、国随一の富豪ラム(Ram)を祖父にもつ、名門中の名門ダナンジャヤー家(Dhanañjyaya)の娘として生まれた。

七歳の時、ヴィサーカーは祖母メンダカ(Mendaka)に連れられて、都におられる仏陀をたずねた。そして、仏陀の説法を聞いて悟りの第一段階で ある預流果(Sotāpatti)を得た。

ところで、コーサラ国の富豪ミガーラ(Migāra)の一人息子は、両親から早く結婚することをさかんにすすめられていた。

自由な独身生活を楽しん でいる一人息子は、次の五つの条件を満たした女性となら結婚してもよいと両親に答えた。

(1). 美しい髪をしていること。
(2). 美しい唇をしていること。
(3). きれいな歯をしていること。
(4). きれいな肌をしていること。
(5). いつまでも若く、たいへん健康であること。

早速ミガーラ夫妻は、バラモンたちにこの理想の女性を探すことをお願いし、大金を手渡した。そしてバラモン達は旅に出た。

サーケタ(Sāketa)という町にやってきたバラモンたちが、川の辺の建物で休憩していた時、美しく着飾ったヴィサーカーが同じ年頃の娘たちとい っしょに川へ水浴びに来た。

その時突然、黒い雲が空をおおい、激しく雨が降りだし、娘たちは駆け足でバラモンたちのいる建物にキャッキャッ言い ながら駆け込んできた。

しかし、ヴィサーカーだけが、どしゃぶりの雨の中をゆっくり歩きながら悠然とその建物に入ってきたのである。

バラモンたちはその娘の美しさにたいへん驚くと同時に、五つの条件の内、一つを除いて十分に満たされていることを密かに喜んだ。

そこで、小さい声で

「何と綺麗なお嬢さんだろう!」
「結婚話が殺到しているんだろうな」
「しかし、一つ問題がある」
「?」
「若さがないってことだよ。どしゃぶりの雨の中をゆっくり歩いていただろう。若さがない証拠だよ」
「どこか身体が悪いのかなぁ」
「それじゃ結婚も難しいね」
「そりゃ残念だ」

とバラモンたちが雑談していた。

「それは私のことですか?」

と彼らの話を黙って聞いていたヴィサーカーがたずねた。

「そうです。貴方のことですよ。雨が降り始めた時、皆が駆け 出したのにお嬢さんだけがゆっくり歩いてこられた。そのために、美しく着飾った衣装や髪飾りが雨でびしょ濡れになってしまった。何故、ゆっくり 歩いていたのかね?」

と彼らがたずねた。

「バラモンたちよ、この世界には綺麗に正装した姿で駆け足をすると、誤解を受けやすい方が四人おります」

「それは・・・?」

「それは、偉大な王であり、王の象であり、僧であり、そして、名門の娘でございます。
もし、偉大な王が華麗に着飾った姿で普通の家の主人のように走っている姿 を人々が見たならば、王に対する人気のない批判的な「うわさ」が流れ、誤解されるでしょう。
同じことがほかの方にも当てはまります。そして、もう一つの理由で私はゆっくり歩いていたのです。
年頃の娘をもつ家族は、よい結婚を願うあまり娘をたいへん大切に育てます。もし、結婚前に娘が 走ったり駆けたりして腕や足などを折ったりすれば、それは今まで育ててくれた両親の負担となります。
雨で濡れた衣装など、後で家の者たちに乾かさせればすむことです。だから私は、あの時走らなかったのです」

バラモンたちは、彼女の話を静かに聞きながら

「ふぅんー、こんな綺麗な歯を今まで見たことはない。この娘こそ、長い間探し求めてきたミガーラ家 の結婚相手だ」

と心の中で笑みを浮かべた。

バラモンたちから報告を受けたミガーラ家では、 早速使者をたて、ダナンジャヤ家に

「ぜひ、そちら様のお嬢様を当家にいただきたい」 と申し込んだ。

めでたく結婚の話がまとまり、結婚式の当日、名門中の名門の家から嫁を迎えることになったミガーラ家では、 連日連夜、盛大な披露宴が行われた。

この騒ぎの間、多忙なミガーラ長者は自分の信仰するジャイナ教の裸行者たちに対する施しが忘れがちとなり、後日、そのお詫びも兼ねて裸行者たち を家に招待した。

ミガーラ家の嫁となったヴィサーカーは、舅のミガーラからこの裸行者たちは 「阿羅漢」の悟りを得たりっぱな人たちであると聞かされていたので喜 んでその接待役を引き受けた。

しかし、招待された裸行者たちが傲慢で恥や罪ということを知らない者たちであったため、 ヴィサーカーはその場で接待の役をやめて、自分の部屋に帰ってしまった。

怒った裸行者たちは

「ミガーラ長者よ、あんな嫁などこの家から追い出せ!何故、仏陀を信じる娘など嫁にしたのだ!」

となじった。

「しかし、アンガ国第一の富豪を祖父にもつ名門中の名門の娘を、今すぐ追い出すことなど私には出来ない相談です」

というミガーラの言葉に裸行者たちも沈黙した。

そして、裸行者が引き上げた後、ミガーラは一人でゆっくり食事をはじめた。

その時、一人の比丘が食べ物の施しを受けるためにミガーラ長者の家に やって来た。

ミガーラは、この比丘を完全に無視した。

これを見ていたヴィサーカーは、比丘のところへやって来て

「ごめんなさい。今、舅が食べて いるのは、『残り物』なのですよ」

と詫びた。

これを聞いた舅のミガーラは激怒して、ヴィサーカーに

「今すぐこの家を去れ!」

と言い渡した。

しかし、彼女は自分に落ち度があるとは思っていなかった。

そこで自分の保証人である八人の長者たちに判断してもらうことにした。

最初に舅のミガーラが

「私が黄金のお皿で食事をしていると

『それは汚いごみだ』

とこの嫁が言った。

だから私は、嫁に家を出て行ってもらうことにしたのである」

と述べた。

次にヴィサーカーが

「お義父様が食事をしている時、一人の比丘が食べ物の施しを受けに家の前に立っていたのです。
しかし、お義父様はその比丘を完全に無視され、 食べ物の施しをなさらなかった。
ここに嫁いで以来、私は、お義父様が称賛に値するほどの善い行いをなさらない方であると感 じていました。
ただ、過去の遺産に胡座をかいて、それを消化しているだけなのです。
だから私は、お義父様は「残り物」を食べておられるとお坊さんに言ったのです」

と述べた。

この言葉にいたく反省させられた舅は、この嫁に詫びた。

そこでヴィサーカーは舅にお願いして、仏陀を招待することを許してもらった。

翌日、仏陀とその比丘たちはミガーラ長者の家に招待され、 ヴィサーカーの接待を受けた。

舅はその場に参加せず、ジャイナ教の裸行者といっしょに別の部屋にいた。

しかし、

「お義父様、ぜひ、尊いお方の説法をいっしょに聞きましょ」

という嫁のたび重なる誘いを 断り続けることができず、ついにカーテンの後ろで仏陀の説法を聴聞するという条件で参加した。

そして、仏陀の説法を聞き終えた舅は、悟りへの第一段階である預流果(Sotāpattiphala)を得、 以後、ヴィサーカーを自分の母親のように深く尊敬しているという意味から

「ミガーラマータ(Migāramātā):ミガーラの母親」

と呼ぶようになった。

年老いてもヴィサーカーは、その若々しさを失わず、多くの子供や孫たちに囲まれ、 時々、僧院へ出かけては説法を聞くのを楽しみにしていた。

そして、彼女はプッバーラーマ(Pubbārama)という名前で有名な僧院を建立し、仏陀に寄進した。

僧院が完成したその夜、ヴィサーカーは子供や孫やひ孫たちといっしょにその新しい僧院にやってきて、喜びの言葉を唱え、 子供のようにはしゃぎながらその回りを歩いた。

そのはしゃぎぷりを心配した比丘が仏陀に

「ヴィサーカーはだいじょうぶでしょうか?」

とたずねた。

そこで仏陀は「比丘たちよ、ヴィサーカーは前世からの願いがことごとく成就したので、 うれしくてしかたないのだよ」

と言われたのである。
(第53偈の因縁物語)





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